
塗料は、自動車や電車、船舶をはじめ、鉄橋や鉄塔、街灯や遊具、そして冷蔵庫や洗濯機などの家電製品まで、私たちの身の回りのありとあらゆるものに使用されています。
ここでは、膜厚計を初めて使用する方のために、膜厚計についてはもちろんのこと、塗装の目的や、なぜ膜厚を測定する必要があるのかについて説明します。

膜厚管理の必要性



塗装の目的と膜厚管理の必要性
どうして塗装をするの?
塗料は、自動車や電車、船舶をはじめ、鉄橋や鉄塔、街灯や遊具、そして冷蔵庫や洗濯機などの家電製品まで、私たちの身の回りのありとあらゆるものに使用されています。
なぜこのような多くの構造物や製品に塗装が施されているのでしょうか?
それは、塗装には、①外観を美しく見せる、②素地を保護するという2つの機能があるからです。
外観を美しく見せる
たとえば、自動車のカラーがシルバーしか選択できなければどうでなるでしょうか?
精悍な黒や、鮮やかな赤の美しいカラーリングをもつ自動車を購入することができず、多くの人にとって自動車を持つ喜びが半減し、単なる移動手段の1つという側面が強くなってしまうでしょう。
「塗膜」は、構造物や製品にとっての「お化粧」です。自動車や電車、家電製品にも人間と同じように「お化粧」をすることで、美しさを表すことができます。
素地を保護する
塗膜には、水や塩分、紫外線などから素地を保護し、劣化を抑える機能もあります。
もし、鉄の板に塗装が施されていなければ、雨等ですぐに錆が発生してしまいます。橋や歩道橋、公園の遊具などで錆により腐食が進行すると、必要な強度が維持できなくなり、重大な事故につながる恐れがあります。
このように、塗膜は素地を保護するという非常に大切な役割も担っています。
なぜ膜厚を測定する必要があるの?
塗装には塗膜には①外観を美しく見せる、②素地を保護するという二つの機能があります。それではなぜ、膜厚計を使用して膜厚を管理しないといけないのでしょうか?
実は、塗装の厚さは、薄すぎても、厚すぎても問題が生じるため、正確に管理する必要があるのです。
塗膜が薄い場合
塗膜が薄いと、変色や光沢の劣化が生じやすくなります。見た目が悪くなるだけでなく、素地が露出してしまうと、腐食などの素地の劣化が進行し、素地を保護することもできなくなります。
塗膜が厚い場合
塗料を厚く塗りすぎた場合、塗料が無駄になるだけでなく、ひび割れの原因にもなります。ひび割れが発生すると、外観が損なわれるだけでなく、ひびから素地の劣化が進行してしまいます。
このように、塗装の2つの機能である①外観を美しく見せる、②素地を保護するために、膜厚の管理は必要不可欠なのです。
膜厚計の種類
膜厚計には、大きく4つの種類があります。
電磁式膜厚計、渦流式膜厚計、電磁/渦流式膜厚計(デュアル膜厚計)、超音波式膜厚計の4種類です。
測定対象物に合わせて機器を選択しましょう。
電磁式膜厚計
素地
鉄などの磁性金属(磁石にくっつく金属)
塗膜
塗装、樹脂、エナメル、ニス、クロム等の非磁性被膜
渦流式膜厚計
素地
アルミ、銅などの非磁性金属
(磁石にくっつかない金属)
塗膜
塗装、陽極酸化被膜、プラスチック、樹脂、ゴム等の絶縁性被膜
電磁・渦流膜厚(デュアル膜厚計)
電磁式の素地・塗膜
鉄等の磁性金属上の非磁性塗膜
渦流式の素地・塗膜
アルミ等の非磁性金属上の絶縁性皮膜
超音波式膜厚計
素地
金属および、コンクリート、木材、樹脂などの非金属
塗膜
表面が粗い場合や、発泡性の塗膜は測定不可
電磁式膜厚計(鉄用)
磁石を引張る力の強さである磁束密度を測定し、膜厚を計算します。
塗膜が薄い場合は、プローブと素地の距離が近くなるため、磁石を引っ張る強さ(磁束密度)が強くなります。逆に、塗膜が厚い場合は、プローブと素地の距離が遠くなるため、磁石を引っ張る強さ(磁束密度)は弱くなります。
このように、磁石の引っ張る強さは、プローブから素地までの距離に比例しますので、この性質を利用して膜厚を計算します。
塗膜が磁性を帯びている場合は測定することができませんので、注意が必要です。

電磁式膜厚計
渦流式膜厚計(非鉄用)
金属面上の渦電流を測定し、膜厚を計算します。
塗膜が薄い場合は、プローブと素地の距離が短くなり金属面上に発生する渦電流が強くなります。逆に、塗膜が厚い場合は、プローブと素地の距離が長くなるため、渦電流が弱くなります。
このように、渦電流の強さは、プローブから素地までの距離に比例しますので、この性質を利用して膜厚を計算します。
電気を通さない絶縁性の皮膜でしか測定できないことに、注意が必要です。

渦流式膜厚計
電磁/渦流式膜厚計(デュアル膜厚計)
電磁式と渦流式の二方式を搭載した膜厚計です。
素地が、鉄などの磁性体とアルミなどの非鉄金属の両方に対応します。

電磁・渦流膜厚
(デュアル膜厚計)
超音波式膜厚計
超音波の伝播時間をもとに膜厚を計算します。
プローブから発信された超音波は、塗膜と素地の間で反射しプローブに戻ってきます。
超音波式膜厚計では、この超音波の発信から受信までの時間を計測し、これに塗膜の音速をかけて膜厚を算出します。
超音波式膜厚計は、主に、コンクリート、プラスチック、木、ガラス等に塗布された塗膜の厚さを測定するために使用されています。素地が、金属以外でも測定できることが大きな特徴です。
ただし、他の手法と異なり、カプラントという液体をプローブ(センサー)と測定箇所の間に塗布する必要があります。また、表面が粗い場合や、発泡性の塗膜、超音波が伝わりずらい塗膜は測定することができないため、注意が必要です。

超音波式膜厚計
よくある質問
零点調整は、同梱されている試験片で行って問題ないでしょうか?
電磁式および渦流式では、測定を行う素地と同じ材質で、塗装がされていないところで零点を設定する必要があります。
同梱されている試験片で零点調整して、測定を行っても正しい膜厚は表示されません。同梱の試験片は、あくまでも動作確認用ですので注意してください。
必ず、実際に測定を行う素地と同じ材質で零点調整を実施してください。
どのぐらい厚い塗装を測定できますか?
測定方式や機種により異なります。
電磁式で最も厚い膜厚を測定できるSM-1500Dという機種で15mmまで、渦流ではEDY-5000で5mmまで、超音波式ではULT-5000という装置で6mmまでの膜厚を測定することができます。
高温の塗装の厚さを測定することはできますか?
残念ながら、弊社では高温測定用の膜厚計は扱っていません。
用語集
- 電磁式膜厚計
- プローブが検出している磁石を引張る力の強さ(磁束密度)が、母材との距離に関係している現象を用いて測定します。
鉄などの磁石がくっつく金属(磁性金属上)の、非磁性皮膜の厚さを測定することができます。 - 渦流式膜厚計
- プローブにより母材に発生している渦電流量が、母材との距離に関係している現象を用いて測定します。
アルミなどの非鉄金属上の、電気を通さない皮膜(絶縁性皮膜)や非磁性皮膜の厚さを測定することができます。 - デュアル膜厚計
- 電磁式と渦流式の両方の測定方式を搭載した膜厚計です。
- 超音波式膜厚計
- プローブから発信された超音波が、塗膜と素地の間で反射し戻ってくる時間から膜厚を測定します。
金属だけでなくコンクリートや木材上の塗膜も測定することができます。 - 零点調整
- 膜厚ゼロの状態を、膜厚計に設定する作業です。
測定を行う素地と同じ材質で、塗装がされていないところを測定し、零点を設定します。
零点調整を行わないと、正確な膜厚を測定することができません。また、実際に測定を行う素地と異なる材質で零点調整を行った場合にも、誤差が生じます。 - 校正用フォイル
- 薄いプラスチックの板のことです。膜厚計の校正や動作確認に使用します。
- 素地
- 塗膜等の下地である母材部分のことです。
- プローブ
- センサーのことです。本体と一体型になっている膜厚計と、本体と別れているセパレート型があります。